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東雲よはんそんの日記兼投稿サイトで連載中の小説の裏話などなどのブログ
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だいぶ遅くなりましたが、姉ちゃん、諦めなよの「絶対に帰らない!」の裏側?
を姉ちゃん視点でお送りしたいと思います。













*****






 意識が戻ったすぐは気にしてなかった。
 けれど、とりあえず状況が落ち着いた時、思った。

「髪、すっごい長い」

 洗面所の鏡を見ながら自分の髪をつまむ。
 元々髪は長かった。半年間の入院でさらに伸びてる。だけど。

「……パラフィアにいたころは短くしてたからなぁ……」

 久しぶりに袖を通したスーツ。
 久しぶりに髪の毛をまとめる。
 久しぶりに見る、会社員な私。
 鞄を持って、玄関に向かう。久々の出勤だ。

「姉ちゃん、もう出るの?」
「久しぶりだからね、状況とかも知りたいし。しかも、会社には異世界のイの字も存在しないわ!!」
「……お疲れ様。いってらっしゃい」

 静貴の同情を含んだような声に見送られて出勤した。


*****


 職場に着いてからもついつい髪の毛の事を考えてしまう。たぶん、鏡で改めて長さを確認したからだろう。

『まとわりついて、うっとおしくて嫌いだ』

 そう言ったのは殿下だ。

「うっとおしくて悪かったわね」
「何がですか?」

 つい苛立ちが独り言となって出ていたらしい。けれど、応える声があった事に驚いた。
 まだ出勤してくるには早い時間のはずで。

「……生田目君……」

 背後に立っていたのは、今年はいった新入社員で、私が教育係を務めている男の子だった。
 たった今出勤してきたらしい彼は、私の向かいの机に鞄を置く。
 そう言えば。
 私がいなかった半年間って、会社の人間はどう認識しているのだろう?
 病院では私の入院記録とかを含めて、事実そのものが抹消されちゃってるし……。

「久しぶり、生田目君」

 とりあえず、無難だろう言葉をかけてみる。生田目君はパチクリと大きな目を瞬かせて、それから少し笑った。

「たった二日で久しぶりはないですよ、先輩。体調を崩したって聞きましたけど、大丈夫ですか?」
「ありがとう。もう大丈夫」

 なるほど、そういう事なのね。
 半年間が二日に短縮されている。何かボロが出そうな気もしないでもないけれど、大丈夫そうなので話を合わせるようにしておこう、と脳内でメモした。

「それより、何がうっとおしいんですか?」
「あぁ、髪の毛よ。最近、どこぞの馬鹿にいきなりうっとおしい髪の毛だな、とか言われたから」

 確かに下ろしっぱなしだと自分でもうっとおしく感じるときはあるけれど、他人に言われるのは我慢ならない。
 吐き捨てるように言ってやれば、生田目君はまた目を瞬かせて、今度は微笑んだ。

「……僕は好きですよ。先輩の髪、長くてきれいで、すごく似合ってると思います」

 ……。
 私、恋愛の経験値はそんなに高くない。けれど、これは……。
 生田目君も意識して言葉を選んだのだろう、挑戦的な目線の中に、色々と含むものがある気がする。
 当然、私でも察する事が出来たのだから、それが恋愛上級者ともなれば。
 ……って。

「一体どこから湧いて出たのよ!!!」

 いつの間にか殿下が現れ、生田目君の胸倉を掴み殴る体制。
 私の横で傍観を決め込むヴィラ。
 吹っ飛ぶ生田目君。
 止めはしないけれど何か呪文を唱えているウィル。

「……っこの……」

 アホどもが!!!!!
 肩で息をしながら、鋭い視線でじっとこちらを見つめる殿下を完璧にスルーして、急いで決して軽くはない生田目君を担ぎあげ(文字通り担ぎあげた。人間、火事場には馬鹿力が出るものよ。たとえ女でも)、救護室へ直行した。
 そのあとはこのアホ3人組をひっつかんで自宅へとんぼ返り。
 とんだ無断欠勤だわ! もちろん後から会社には連絡を入れるけれども!!


*****


「絶対に帰らない!!」

 私の怒りの絶叫に同じく絶叫で返した殿下を忌々しい想いで見つめた。

『長い髪の毛は嫌いだ。うっとおしくまとわりついて、まるで媚を売る女のようだ……気持ち悪い』

 パラフィアへ行った当初、私を蔑むような瞳で見つめながら、事あるごとにそう零したのは殿下だ。
 だから、殿下との距離が近くなった時に髪を切った。
 最初の頃の言葉なんて忘れてしまった殿下はもったいないと残念がったけれど、伸ばす事は決してなかった。
 けれど今、私の髪は長いままで、切る予定なんてない。


『その重たい黒い髪の毛、女の執念を思わせる。おまけに長く、風に煽られまとわりつく……長い髪は嫌いだ』



 いつかは帰る王子様。
 私の髪の毛は伸ばしたままよ。
 媚を売る女のようにうっとおしくまとわりついて。
 女の執念のように重たく黒い、長い髪。
 私が貴方に媚を売る事なんてないけれど。
 長い髪は嫌いでしょう?
 私の事もさっさと忘れて帰ればいいわ。




Fin





 









 あ、生田目君に怪我はなかったみたい。よかったわ。
 あの時にウィルが唱えていた呪文は痛みと傷を無効にするものだったらしい。

「殿下に彼を殴った、という事実を与えなければ、殿下の矜持もうっ憤も収まりそうにありませんでしたので」

 だって。
 だったらそれを早く言いなさいよ。
 まあ、言ったとしても対応は変わらないけれど。

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